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市場のムードはバブル懸念から、バブル破裂懸念へと一変した。 もっとも、この暴落でもダウ平均はG議長が「根拠なき熱狂」と警告した九六年三月五日の水準をなお一二%も上回っていた。
その二日後の一○月二九日。 G議長は上下両院合同経済委員会の公聴会に臨んだ。
同委員会のJ・S委員長は、経済動向が緊迫し、世論の関心が高まる頃合いを見計らってタイミングよく公聴会を開催する。 こうすることで有権者へアピールできるからだ。
この日の公聴会会場として、上院ダークセンビルでも最も広い会議場があてられた。 そこには、臨時記者席も設けられ、S委員長の選出州であるニュージャージー州の記者団には特別席まで設けられていた。
公聴会の開始は午前一○時。 だが、通信社記者にとって、午前一○時は第一報を流し終える時間だ。
形で、解禁付きで記者団に配布される。 この日は、G議長がその日の朝に、講演テキストにさらに推敵を重ねたため、テキスト配布が遅れていた。

同議長は持病の腰痛治療のため、毎朝、バスタブにたっぷりお湯をためて、一時間ほど身体を横たえ、その間、原稿の添削や統計数字のチェックをする。 この朝も、日課の朝風呂で、議会証言テキストを推敵したという。
このため、係員からテキストが手渡されたのは解禁一○分前というきわどい時間になっていた。 しかも、テキストのコピーが少なく、そこに多数の記者が殺到したため、大混乱となり、何部かのテキストはばらばらになって飛び散ってしまった。
各社とも、複数の記者がテキストの冒頭、末尾、中央部からと、分担して読み始めた。 G議長は、メッセージを明確に伝えたいときは、冒頭にキーワードを配置する。
この日のキーワードは一ページ目にあった。 こうして、この修羅場から、米東部時間午前一○時○○分に、各通信社は一斉に「株価下落は将来、健全な出来事として思い起こされるだろう」というヘッドラインを送信した。
同議長はさらに、「株価の下落は米経済の過熱を抑制し、景気拡大期を伸ばすことになるだろう」と述べ、不安心理の沈静化に努めた。 二カ月前に発した「根拠なき熱狂」の警告から一転して、株価押し上げへとトーンを変えた。
アジア危機は韓国にも波及。 九七年一二月のFOMCはバイアスをそれまでの「引き締め方向」から、「中立」に転換した。
翌九八年二月のFOMCも「中立」バイアスを継続した。 ところが、国際的な金融支援が奏効してアジア危機が小康状態を取り戻すと、米国経済は再び過熱の兆候が目立つようになる。

これを受けて、FOMCは同年三月二二日、バイアスを「引きG議長は、八月のFOMCでバイアスを「引き締め方向」から「中立」に引き下げたことをマーケットに周知させる必要があると考えた。 当時、バイアスは次のFOMCが終了した後の議事録(要旨)発表で初めて明らかにされていた。
通常のルートでは、その公表は一○月初旬まで、待たねばならない。 考えあぐねたG議長は、九月四日のカリフォルニア大学バークレイ校での講演予定に目が止まった。
同校での講演は金融政策の方針転換を示唆するのに格好の場だ。 こうして同議長は九月四日、ロシアに波及してきた国際金融危機について、「米国は一人、繁栄のオアシスにとどまることができる、と信じるわけにはいかない」と、比較的楽な言い回しながら、危機に直締め方向」に戻している。
「引き締め方向」のバイアスは、その後、同年七月一日のFOMC会合でも引き継がれ、利上げ臨戦態勢を敷いていた。 こうして米金融当局が景気の過熱を警戒している最中の九八年八月一七日、ロシア政府はルーブルの切り下げと対外債務の返済繰り延べを抜き打ち的に発表。
ロシア金融危機が勃発する。 そして、その翌日の八月一八日に開かれたFOMCはバイアスを再度「中立」に引き下げるという慌ただしい動きとなった。
ロシア金融危機を受けて、ニューヨーク証券取引所の株価は八月三一日に五三ドル六一セント(六・四%)暴落し、七五三九ドル一五セントとなった。 それでも、大幅安を記録した前年一○月二七日の終値七一六一ドルをなお五・三%上回る水準だった。
面していることを明確に伝えた。 そして、九月二九日のFOMC定例会合で○・二五ポイントの利下げを断行。
その二週間後には緊急FOMCを招集して、○・二五ポイントの追加利下げを決定した。 さらに二月一七日に三度目の○・二五ポイントの利下げを加え、わずか二カ月の間にフェデラルファンド金利は四・七五%にまで低下した。

米経済はこの低金利で一段と過熱が進み、株式市場ではバブル化が進行する。 FOMCは九九年五月にバイアスを「引き締め」に転換。
六月三○日の会合で○・二五ポイントの利上げに踏み切る。 G議長はその二週間前の六月一九日の議会証言で、株価高騰について、「バブルは一般的に破裂した後に、それと初めて認識できるものだ。
バブルの破裂は決して穏やかなものではないが、その結果は必ずしも災禍的なものとはならなどと述べ、バブルは破裂後の治療に専念することが重要との立場を初めて明らかにした。 振り返って見ると、実際にバブル化が進行する過程で、G議長はバブルを認識するのは困難であり、破裂後の治療に専念するという政策を確立した。
また、同議長は、その重要性を真っ先に認識した生産性の向上を原動力とする「ニューエコノミー」により、株高は正当化されるという判断に傾いていった。 FOMCの主役はもちろん議長だが、その議長を支える陰の主役はグリーンブックを提出する調査統計局長と、金融政策の選択肢を網羅したブルーブックを提出する金融政策局長だ。
世紀末を飾る最後のFOMCは年の瀬も迫った九九年一二月三日に開かれた。 M調査統計局長は、グリーンブックに沿って、先行き二年間の実質経済成長見通しを四%弱、失業率を四%近辺、物価について国内総生産(GDP)デフレーターで二%上昇と、きわめて良好な予測を提示した。
同局長はそこで一息ついてから、「われわれは、経済がひどく過熱している可能性があり、一面では非常に歪められていると判断している」と強い警告を発した。 同局長は、株価上昇を「金融の機関車」と形容し、「株価上昇効果が金融引き締め効果を上回っている」と指摘した。
そして、「九九年に実行した○・七五ポイントの利上げが十分かどうか分からない」と結んだ。 これに対して、G議長は「基調的なインフレ率は加速しておらず、景気過熱シナリオを否定している。
生産性が主導する非常に強い成長シナリオということだろう。 経済の過熱があるとすれば、それらはすべて資産効果によるものだろう」と述べた。
その資産効果についても、議長は「継続しない」と指摘、マーケットメカニズムによる調整に委ねる姿勢を示した。 この日のFOMCはコンピュータ二○○○年問題を控えていることもあり、金利の据え置きを決定した。

九九年はIT株式バブルを機関車とする景気の過熱が進んだが、FOMCによる利上げは三回八年八月のロシア金融危機に伴う利下げ分を解除したにすぎなかった。 二○○○年の年明けとともに、株価は異様な動きを始める。
ニューヨーク証券取引所のダウエ業株三○種平均は一月四日に三五九ドル(三・二%)急落。 しかし、すぐに戻して一月一四日には一万一七二二ドル九八セントの史上最高値を示現する。

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